『インサイト』を「役割」から発想する

はじめに

前回のコラム、『両利きのインサイト』:「隠れイシューの深掘り」だけでないアプローチhttps://x.gd/Fm5Pyでは、インサイトを発想する際の、潜在的な問題・課題の深掘りではない、もう一つの考え方に関して記しました。

今回は、「ではそのインサイト自体はどうやって発想するのか」です。

※前回も記しましたが、ここでの『インサイト』とは、単なる消費者への深い洞察とか裏話とかのレベルや、認知を上げるための広告アイデアではなく、
(その商品・サービスを) 買う・使う理由やきっかけになりそうだけど、まだ本人が気づいていないこと」を意味します

さて。

この『インサイトの発想法』に関することは色々な方が色々なところで書かれたりお話されたりしていますし、私も以前のコラムで、「ごく一部の人の認識・行動が他の人にとっての発見・驚き・インサイトになる」という『誰かの「フツー」は、他の人にとっての「インサイト」(かも)』https://x.gd/FtPY3を書きました。

ただ、上記のコラムも含め、それらはどちらかというと
「お客さんの声を聴く」「日常の違和感に注目する」「発言ではなく行動を観察して想像する」
といった、発想に際しての『姿勢』『意識の持ち方』がほとんどではないかと思っています。

なので、ここではそういう精神的なものではなく、
『「何」を「どうしたい」からインサイトが必要なのか』
という『役割』からのアプローチ手法を記したいと思っています。


『インサイト』に期待される役割

その役割とは、簡単に言うと、

「そのブランド・商品・サービスは買わない・必要ない(知らない)」
という現在のWHO(ターゲット)の考え・行動を
「そのブランド・商品・サービスを試してみたい・買ってみたい」
というものに変えてもらう

ということです。
※もちろん、これは企業側が「盛り」や「力技」や「短期的な値下げ」などで無理矢理変えるというのではなく、『そのWHOがまだ気づいていないけれど、それに気づくと「これは自分にとって価値あるものだ」と認識してくれる』ものであるのが大前提です

そして、そのために必要なのは、

WHOが「そのブランド・商品・サービスは必要ない」と思っている背景にある
『認識』(perception)
が「あることをきっかけに自発的に変化する」ということになります。

そして、この『きっかけ』こそが『インサイト』となります。
(注)これは私が過去P&Gさんと仕事をしている時に伺ったものをヒントにしています

図で表すと、以下のように、現在の「買わない」という行動の背景にある①「現状の認識」が、②「インサイト」によって③(企業側にとっての)「理想的な認識」に変化してくれるならば、行動も「買いたい・試してみたい」となることが期待できる、となります:


そしてこのWHOの
『認識の①「現状」が③「理想」に変わるためには何が「きっかけ・気づき」となるのか』
を考えることが、
『「インサイト」をその「役割」から発想するアプローチ』
となります。


「役割」から発想するインサイトのアプローチ

上記のインサイトボックスをどう使っていくのか、ですが、以下のような順で考えていきます:

  1. まず、上2つのボックス、「現在の行動」「理想の行動」を記す
  2. 次に、左下のボックス、現在のノンユーザーの行動の背景にある「現在の認識」を記す
    (注)これはSNSの投稿や消費者へのヒアリングなどから推測します:なお、消費者調査などで「なぜ○○を買わないのですか?」と直接聞いてしまうと、回答者が無意識的にそれらしい答えを作ってしまう可能性があるのでご注意:ほとんどの人は「なぜ買わないのかさえも考えて・意識していない」という状態にあります
  3. そして、右下のボックスに、その人が「この商品・サービスを買いたい・試したい」という行動に出る際の背景となる「理想の認識」を記す
  4. この「現在の認識」から「理想の認識」に変わるものと似たことが行われた「他のカテゴリーの商品・サービス」を探す(生成AIに聞いてみるのも一案)
  5. その「他のカテゴリーの商品・サービス」をベンチマークとし、当該商品・サービスに置き換えるとどういう「便益」がそのきっかけ・インサイトとなるかを考える(「アナロジー思考」ですね)
  6. その『インサイト』を真ん中下の「インサイト」のボックスに記す

上記、具体的な事例(一部は私の推測ですが…)で説明します。

[推定事例:おつまみ用ホットケーキミックス]

先月(2026年3月1日)に昭和産業が創立90周年記念商品として堂本剛プロデュースとして期間限定発売した、
『俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス』(リリース: https://kyodonewsprwire.jp/release/202602103882下記の写真も)。

「ワンハンドで食べられる8cmのサイズで1cm程度の薄さに簡単に焼ける」、「生地は甘じょっぱい味なのでお酒のおつまみになる」、「色々なものをのせてホケパ(ホットケーキパーティー)もできる」というとてもスグレモノのインサイトを持った商品です。
この商品の発想・インサイトを、私の推測ですが上記のインサイトボックスにあてはめてみます。

①『現在の行動』と『理想の行動』(ボックスの上2つ)

  • 「私は買わない・必要ない」を「買いたい」という行動に変えることを目的とします


②「現在の行動」の背景にある「現在の認識」(左下)

  • なぜ買わないのか、の背景には「ホットケーキは子供が好きなスイーツで、大人の私には休日に家族で一緒に、というものだから」があると推測します(これはSNSの投稿などによく出てくるコメントだと認識しています)
    ※この際、『潜在ニーズ』は、敢えて言えば「ホットケーキの味自体は嫌いじゃない」なんですが、このケースにおいてそれはそこまでの深刻な『課題・イシュー』ではないと認識しますのでカットします(前回のコラムにおける『隠れイシューの深掘り以外のアプローチ』に該当するケースだと考えています)

③「現在の認識」をこう変えたい、という「理想の認識」(右下)

  • 上記の子供向け、という認識を「このホットケーキ(ミックス)は大人向けのものなんだ!」と変えることができれば、「買いたい」という行動につながる可能性がある(もちろん、このWHOがホットケーキの味自体は嫌いではない、というのは大前提です)

④「現在の認識」を「理想の認識」に変えた、他のカテゴリーで似たケースを探す(ベンチマーキング・アナロジー)

「子供向けのものだからいらない」を「これは自分のような大人向けなんだ!」というように『認識』を変えた、他のカテゴリー商品の事例を探す。例えば:

  1. ハローキティ:著名なハイブランドと大人用の商品をコラボで作る(&セレブに使ってもらう)
  2. ベビースターラーメン:そのまま食べるのではなく、料理に使える「アレンジレシピ」用の食材として提案。その延長上として、居酒屋チェーンとの「ベビースターラーメンのとり串カツ」や「ベビースターラーメンのそばめし」などのコラボメニューも展開
  3. 森永ラムネ:ラムネがぶどう糖を90%配合していることから、「集中したい時に」「脳のエネルギー」という部分をアピールし、大粒ラムネも販売してメディア等でも取り上げられ、「勉強・ここぞという時のお供にはラムネ」と学生、会社員の必須アイテムに
    • 「森永ラムネ」が“大人の必需品”になったのはなぜ?「ぶどう糖」の思わぬ効果をきっかけに戦略を変えて大成功!(ウォーカープラス、2023.3) https://www.walkerplus.com/article/1124467/

⑤ベンチマーキングをこれから開発する自商品・サービスにあてはめ、インサイトとなる「きっかけ」を生み出す便益を探る

  1. 大人が食べるもの
    ⇒ 例えばベビースターラーメンのように、「お酒に合うおつまみ」になれないか?
  2. いまのホットケーキは甘くて、おつまみにはなりにくい
    ⇒ 甘さを抑え、塩味を強くすれば?
  3. 今のホットケーキミックスは、大きくて厚いサイズ用にできている
    ⇒ 例えば森永ラムネが「プラスチックのラムネ瓶形状に入った小粒」のものだったのを「ラムネ瓶のイメージをデザインで残しつつコンビニのグミコーナーでも売れるようなパッケージにし、食べ応えのある大粒とした」のと逆に、おつまみ用ならば小さくて薄いワンハンドサイズにならないか?
  4. おつまみならば、クラッカーのように色々のせて食べるアレンジレシピも提案できないか?
  5. これを食べる楽しさも提案できないか?
  6. 単に企業側からの提案、というだけでなく、より広く強い話題性の獲得や「独自性のある便益」の深堀りをするためには
    ⇒ キティのようにホットケーキ好きの有名人とコラボし、プロデュースしてもらうという手法もあるのでは?

⑥それを実現させるような商品の開発:上記それぞれに対応する「便益」を、下記の形で具体化
※上記リリース、および『ホットケーキを「おつまみ化」 堂本剛発案の新需要開拓で計画比2.5倍』(日経クロストレンド、2026.4)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01843/ より

  1. 「お酒に合うおつまみ」の専用品として新たに開発(「創業90周年という節目の新しい挑戦」ともアピールできる)
  2. 甘さを抑えて塩味を強くし、ワインやビール、芋焼酎などに合う甘じょっぱい味を実現
  3. ホットケーキミックスの配合パターン等から見直し、直径8cm・厚さ1cmでも焼いている時に破れず、きれいにひっくり返せ、焼き上がり時間も通常の半分にあたる約3分に短縮
  4. 思わず試してみたくなる、堂本剛の「俺が好きな」アレンジレシピをパッケージやサイトで紹介
  5. 味・サイズ・アレンジ・時短などから家族や友人と楽しむ「ホケパ(ホットケーキパーティー)」にも向くとアピール
  6. “ホットケーキマニア”を自任するタレント・堂本剛の意見を色濃く反映、商品パッケージやCMにも活用

⑦インサイトのある商品の実現
 上記のポイントをインサイトボックスで表すと以下のようになります:


結果、この『俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス』は上記日経クロストレンドの記事によると以下のような状況となっています:

  • 成熟・飽和するホットケーキミックス市場で、新たな食シーンを創出し、ターゲットも広げた:自社の定番商品であるホットケーキミックス(600g、300gなど)の売り上げとほとんどカニバリ(共食い)しない傾向に
  • 発売からわずか1カ月で、当初計画の8万個を2.5倍も上回る20万個の出荷を記録
  • 「1袋150gという少量ながら実勢価格は300円台後半」と家庭用ミックス粉としては高価格であるが、店舗によっては入荷は後即完売の状況が続く好調ぶり
  • 発売直後からSNSで爆発的な反響:堂本剛のファンを中心とした熱量の高いUGCが大量に拡散、「何も付けなくてもおいしいし、3分で焼けるからすぐ食べられる」「冷蔵庫にあったもので、急きょのホケパができた」といった好意的な投稿が相次ぎ、商品の認知拡大を強力に後押ししている

なお(WHO/WHATではなくHOWですが)上記日経クロストレンドの記事によると、店頭でパッケージも目立たせ・手に取りやすくさせるために以下のような工夫=破格の投資を行ったとのことです:

  • 箱のサイズを約2.5㎝まで薄くし、消費者が店頭で手に取るハードルを物理的に下げた
  • デザインには堂本剛が好きな紫色のグラデーションを採用し、赤色や黄色が大多数を占めるホットケーキ売り場において強烈なコントラストを生み出した
  • 表紙のシズル写真には一切のCGを使用せず、十数時間かけて本物のシロップの滴りや生地の焼き色を撮影


ということで、「役割から発想するインサイト」と、その事例としての『俺が好きなうすーくてちーちゃいやつ。ホットケーキミックス』を(私の推測ですが)説明しました。

今後、その時々で私が注目したブランド・商品・サービスをこのインサイトボックスを用いて解説していきたいと思っています!

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