『インサイト』は最強のCEP獲得法でもある

(前説)CEPに関するひとつの疑問

南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のByron Sharp(バイロン・シャープ)教授たちが提唱する『Evidence Based Marketing』。その中で、

「“ブランド・商品の成長のための2つの要素のうちのひとつ、『Mental Availability』(メンタル・アベイラビリティ、思い出しやすさ)を高める方法として、有力なCEP(カテゴリーエントリーポイント)を多く持つことが重要”
という話があるけど、既存の大手ブランドがそのカテゴリーに関連する主なCEPをすでに押さえてしまっている(=多くの消費者の頭の中に想起されている)状況で、新規ブランド・新商品はどうやってメンタル・アベイラビリティを高めればいいの?」

という疑問を持たれている人は私も含め、結構多いのではないかと思います。

お腹が空いたら☆☆のハンバーガー…

そもそも、現在の大手ブランドが想起されているCEPも、最初からそれを狙っていたというよりも、ビジネスが大きくなり、多くの人が日常的に使うようになって、長年かけて人々が「○○といえば(=CEP)☆☆ブランド」と思うようになった、『結果論的』な部分も多いのではないかとも思ったり。
…というより、このCEPという概念自体、後述するジェニー・ロマニウク教授により2012年ごろに調査分析の結果として発表されたものなわけで、それ以前にもブランド・広告会社の担当者の一部が広告などで「○○といえば☆☆、と思ってもらいたい!」という考え方を「記憶に残るキャッチコピー」「オケージョン提案」などとして用いたことなどはあっても、「それがビジネスを伸ばす、という確固たるエビデンス」によって意図的に行われたことではないですし。

(これらの広告は参考までに、のイメージです)


(本題に入る前に)CEPとは

南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のByron Sharp(バイロン・シャープ)教授が2010年に出版した『How Brands Grow』(日本語版:「ブランディングの科学」2018年、前平 謙二 訳・加藤 巧 監訳、朝日新聞出版 https://publications.asahi.com/product/20172.html)で提唱されたビジネスを成長させる2つの要素、「Mental Availability」(メンタル・アベイラビリティ:思い出しやすさ)と「Physical Availability」(フィジカル・アベイラビリティ:購入しやすさ)。
そのうちのメンタル・アベイラビリティを高める手法として、2015年に出版された上記著作の続編『How Brands Grow: Part 2』(日本語版:「ブランディングの科学 新市場開拓篇」2020年、前平 謙二 訳・加藤 巧 監訳、朝日新聞出版 https://publications.asahi.com/product/22154.html)において共著のJenni Romaniuk(ジェニー・ロマニウク)教授が提示したのが「CEP」です。

そこで説明されているCEPとは、「ブランドとつながっている道の入り口」。
彼らの各国での調査結果に基づいて、CEPは「メンタル・アベイラビリティを構築するための認知上のチャネルとして機能」し、「カテゴリー内で購買行動を起こすときやブランドを選択する前の購買客の思いや受けた影響が反映され」、「購買客はCEPを介してブランドを想起している」と説明されています。
また、「CEPが多ければこの道も多くなり、ブランドが目立つ機会が増える」ということで、(その国でそのカテゴリーにとって有力な)多くのCEPで当該ブランドを想起させられることがメンタル・アベイラビリティの強さにつながる、としています。

彼らの調査では、ブランド・商品の選択は残念ながらマーケティング・広告業界で言われているほど消費者側の強い想いでなされているものではないし、ヘビーユーザーはそのカテゴリーにおいて新商品を含む複数のブランド・商品を購入している(=限られたブランド・商品しか買わないわけではない)、という結果が出ています。行動経済学のベースとなっている「速い思考・遅い思考」という考え方とちょっと似ていますね(「速い思考」は直観のことなのでちょっと違うか…)。

ブランド・商品の購入において大きな役割を果たしているのは、実は「そのカテゴリー自体を使おうと思うきっかけ」のCEPで、それぞれのきっかけに対して当該ブランド・商品がより多く想起されること(=「○○といえば☆☆ブランド」)が大切なのだ、としています。
(だから、ブランドにとって大切なものだけど、「ブランド」エントリーポイントではなく、「カテゴリー」エントリーポイント、と言っているのですね)
そしてそのCEPとブランド・商品との想起を、カテゴリーのヘビーユーザーだけでなくライトユーザーにも幅広くリーチさせていくことがビジネスを成長させるための必須条件である、としています。

また上記の本、およびその後のインタビュー記事(例「Better Brand Health with Jenni Romaniuk (Part 2) 」bigeye、2023.5、https://www.bigeyeagency.com/insight/better-brand-health-with-jenni-romaniuk-part-2/、英語)などで、ジェニー・ロマニウク教授はこのCEPを見つける・判断するためのフレームワークとして以下の「Ws」(「7Ws」)を提唱しています。

  • When:いつ
  • While:何をしている時に
  • with What:何の商品・サービスと一緒に
  • with/for Whom:誰と・誰のために
  • Where:どこで
  • Why:そのベネフィットや使用するモチベーション
  • hoW feeling:使用前・中・後でどう感じたか


新規ブランド・新商品はどうやってCEP(からの想起)を獲得できるのか

さて、本題の「大手ブランドがすでにそのカテゴリーにおける重要なCEPとの想起を(多くの人から)獲得している状態で、新規ブランド・新商品はどうやったらそのCEPとの想起を獲得し、メンタル・アベイラビリティを高められるのか」に関して。

「ごく少数にしか受けないようなニッチなCEP(からの想起)はいくつ持っていても意味がない」
というようなことが『How Brands Grow: Part 2』に書かれているので、じゃあどうすればいいの?という疑問に対しては、

「大手ブランドであっても、そのCEPとの想起を新鮮に保ち続けないとブランド記憶は薄れていく
「(大手ブランド・商品と同様の)有力なCEPにおいて、新規ブランド・新商品のブランドロゴ、カラー、サウンド、パッケージデザイン、キャッチコピーなどのDBA*とこのブランド・商品が属するカテゴリーを、ライトユーザーを含めた幅広い層に途切れることなく広告し続けることが大切である」
というようなことが上記の本の中で説明されています。
*Distinctive Brand Asset、独自のブランド資産:具体的に記憶される物理的なもの

でも、大手がCEPとの想起を新鮮に保ち続ければ棚ボタ的なチャンスは生まれないし、一般的に新規ブランド・新商品は大手のものほど潤沢な予算を持っていないという状況ではその量のコミュニケーションや広告をし続けるという体力もないし。

そんな状況下において、予算が限られているブランド・新商品が有力なCEPとの想起を獲得するにはどうすればいいのか?


私は、それを解決する有力な方法のひとつが『インサイト』ではないかと考えています。
なおここでの『インサイト』の意味ですが、単なる消費者への深い洞察とか裏話とかのレベルではなく、
「(その商品・サービスを) 買う・使う理由やきっかけになりそうだけど、まだ本人が気づいていないこと」
を意味します。

※上記の『インサイト』とニーズ・ウォンツ・潜在ニーズとの違いを図にしてみました:

またこの場合において、インサイトは上記の「CEPの『Ws』フレームワーク」における「Why」や「hoW feeling」に大きく影響を与える要素となると考えます。


どうして『インサイト』がCEPからの想起獲得の解決策になるのか

つまり、効果的なインサイトを見つけることができれば、例えば(以下は私の推測です):

  • (CEP)喉が渇いてシュワっとした甘いアルコールを飲みたい時に:
    (インサイト)「せっかくなら本物のレモンスライスが入ったチューハイ」を飲もう
    (ブランド・商品)アサヒ『未来のレモンサワー』
  • (CEP)受験勉強でちょっと疲れているけど集中したい時といえば:
    (インサイト)コーヒーやフリスクもいいけど、「集中力を高めるブドウ糖を90%配合しているラムネ」をポイっと口に入れよう
    (ブランド・商品)『森永ラムネ』
  • (CEP)SNSを映えとかを気にせず気軽に楽しみたい時:
    (インサイト)「通知から2分以内に投稿しなければならないので映えとかを気にせずにありのままでいられる」SNSを使おう
    (ブランド・商品)『BeReal』

というように、そのカテゴリーにおける有力なCEPから想起してもらうことに「横からすっと」入り込むことができる、となるわけです。

またこのインサイトは、そのインパクトが強ければ強いほど、情報に接したり実際に購入した一般の人たちによってもリアル・バーチャルで拡散される可能性が高いため、結果としてライトユーザーや未認知者にも(すべてを広告に頼ることなく=費用をそこまでかけずに)幅広く届けられる、ということになります。
※じゃあその『インサイト』はどうやったら見つけられるの?ということのヒントに関しては、私のコラム、『誰かの「フツー」は、他の人にとっての「インサイト」(かも)』 https://x.gd/FtPY3 もご参照ください。

なお、ジェニー・ロマニウク教授は昨年4月、自身のサイト(https://www.jenniromaniuk.com/blog/2025/4/8/category-entry-points-dissected-how-they-really-contribute-to-growth、英語)で
「最近、CEPが意味のないバズワードになってしまう危険性が高まっている:CEPでないもの、例えばUSP(ユニークセリングポイント、そのブランド・商品の独自性)やカテゴリードライバーもCEPだと解釈されたりしている」
と言っていますが、確かにCEPはブランドそのものではなくカテゴリーなのでUSPではないし、そのカテゴリー自体の使用に対して興味を持たせるものでもないのでカテゴリードライバーでもない、ということになりますね。
※ちなみに、私のケースは「インサイトはCEPではなく、有力なCEPから(大手のブランドと直接ぶつかることなく)新ブランド・新商品を想起してもらうための手法のひとつ」と位置付けているのでたぶん大丈夫かと(笑)


(ちょっと話がそれますが)ビジネスの成長分析における評価対象は「売上」か「利益」か

ところで、バイロン・シャープ教授やジェニー・ロマニウク教授をはじめ、彼らが所属している南オーストラリア大学のEhrenberg-Bass Institute(アレンバーグ・バス研究所)においては、ブランド・商品の「売上」がその評価対象となっていて、「利益」の視点からの評価はほとんどなされていません。
「売上が大きければ利益も大きい」という原則的な考え方と、「各ブランド・商品ごとの利益額は外部に公表されにくい」、そして「利益は社内の政治的な判断も影響するため純粋な判断材料とはなりにくい」ということがどうやらその理由のようです。

またその「売上」の視点からは、「パレートの法則(売上の8割は上位2割の顧客によって成り立っている)は存在しない:上位2割の顧客が占める割合はせいぜい5割程度」というような調査結果も上記の『How Brands Grow』(1冊目)で示しています。

が、実際のビジネスにおいては、特に新規顧客やライトユーザーに購入してもらうためには販促や広告、営業施策などが必要となるため追加の費用が発生し、それだけを目的としていくと、結果として利益面から見ると(既存顧客からのものよりも)貢献できていない、ということが多々あります。
私のコラム等でもご紹介している元P&Gの西口一希さんは、最近の著作『良い売上、悪い売上』(翔泳社 https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798189819)やWebinar等で、ご自身が関わった案件等を基に
「営業利益ベースで考えると、パレートの法則は成り立つ」(書籍では「上位に集中している少数の顧客が、中長期的な『累計利益』の大部分を占めている」という表現)
とされています。

もちろん、ロイヤル・ヘビーユーザーも固定されたものではなく常に入れ替わっているため(平均回帰)、その人たちだけを対象にしたビジネスでは成長が見込めず、新規顧客を常に獲得していくことは必須なのですが、それでも値下げなどの短期的な施策で購入する顧客は価格が元に戻ると離れていってしまうため、将来ロイヤル・ヘビーユーザーになってくれるような新規顧客をどう見つけてその人たちに評価してもらえるような商品開発・施策をどう進めていくのか、がキモとなります。
※じゃあそんな商品開発はどうやって?ということは、私のコラム『ブランド・商品コンセプト開発方法』の4回シリーズ(第1回はこちら https://x.gd/nvsQC )をご参照ください


(最後にちょっと脱線)

バイロン・シャープ教授とジェニー・ロマニウク教授が『How Brands Grow』と『How Brands Grow: Part 2』で書いている、

  • フィジカル・アベイラビリティ(購入しやすさ:買いたいと思ったときに買えるような環境・工夫作り、4PでいうところのPlace、ディストリビューション的なもの)と共に大切なのはメンタル・アベイラビリティ(思い出しやすさ)だ
  • メンタル・アベイラビリティにおいて大切なのはCEPと、ブランド名、ロゴ、カラー、サウンド、パッケージデザインなどのDBA(Distinctive Brand Asset、独自のブランド資産:具体的に記憶される物理的なもので抽象的なイメージではない)である
  • CEPはそのブランド・商品が属するカテゴリーを使いたいと思うきっかけで、ブランドにとって大切なのは「このカテゴリーにおいて○○といえば☆☆ブランド」という認知をより多く獲得することである
  • そのカテゴリーにとって重要なCEPを保持しているブランド・商品は常にその伝え方をリフレッシュし続け、カテゴリーのミディアム・ライトユーザーに対しても広告等のコミュニケーションで広くリーチをし続ける必要がある

というようなことは、広告会社の人たちにとっては歓喜し、周りに積極的にアピールしていくようなことなのではないか(彼らが昔からずっとやってきたことなので)、と個人的に思うのですが、なぜかそのような傾向・案件は、下記の最近の博報堂のものを除いてあまり見当たりません。

  • 博報堂、エビデンスベーストマーケティング手法を活用し企業のブランド成長を支援する専門プロジェクトを組成 ―ブランドエクイティを可視化し、ブランド成長に向けた戦略立案が可能に― (博報堂リリース、2025.11) https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/120338/

これってもしかすると、「バイロン・シャープ教授たちの主張に、『ブランドエクイティ』的なイメージ・情緒的要素を否定する傾向があるため、広告会社が自分たちの重要な『資産』としているクリエーターたちとその『作品』的な広告制作に逆風となる可能性もある」からなのだろうか?などと勝手に邪推してしまっていますが…
どなたかお詳しい方がいらしたら、ぜひこっそり教えてください。

・・・・・

あと、個人的にはバイロン・シャープ教授たちの議論・論点、ってWHO/WHAT/HOWの「HOW」の話が中心なんだよなあ、なんて感じています。
※WHO/WHAT/HOWに関してはこちらのコラムをご参照ください
 『「STP」は「WHO/WHAT」の後で。』 https://x.gd/ZkeZh

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