いままで3回にわたって、「独自性x便益」のあるブランド・商品コンセプトを(マーケティングに詳しくない人も含めた)社員で考える手法に関してお話してきました。
最終回の今回は、そこで出てきた案を絞り込んで商品化する際に気を付けたいこと、です
※なおこの一連のコラムにおける「商品」とは「サービス」も含めた意味を込めています
a. 案の絞り込み方
前回のような流れで出てきた案の絞り込みに関しては、以下の4つのステップがおススメです:
- メンバー全員による投票
- アイディアを記入したメンバー各自(全員)が、「自分が可能性を感じる案」「個人的にやってみたい案」などの視点から、共有ファイル上で「ひとり5案」等の条件で投票、その案に投票した理由も記す(メンバー以外の社員にも投票してもらうのも全然アリですが、その際もメンバー投票は必で)
- 投票のメリット:
- どの人がどんな案をやりたいと思っているのか、メンバーの多くに響いている案はどれなのか、をメンバー各自(特に上の人)が確認できる
- 上司や先輩・同僚など周囲の顔色を伺うことなく、自分の意思を示しやすい(心理的安全性の確保)
- なお投票で上位に選ばれなかった案も、市場環境や消費者の意識、その企業の状況などが変化することで大きな可能性が生じることもあるため、「ロングリスト」として保持し、ことあるごとにその可能性について見直していく、ということも重要です(その時に新しい案を追加する、というのももちろんアリです)
- アイディアを記入したメンバー各自(全員)が、「自分が可能性を感じる案」「個人的にやってみたい案」などの視点から、共有ファイル上で「ひとり5案」等の条件で投票、その案に投票した理由も記す(メンバー以外の社員にも投票してもらうのも全然アリですが、その際もメンバー投票は必で)
- 投票の上位案に対し、メンバー全員で(ワークショップなどで)外部環境分析を基に評価
- 最初に行った外部環境の分析(9セグやSWOT、市場データなど)から、その案にどの程度可能性があるかを評価
- ただし、販売数量が期待できない場合でも、例えば「これはSDGsに関係した案なので、企業としての姿勢をアピールするのにとてもよいものだから残そう」というような考え方ももちろんアリ、です
- なので、評価に際しては「売上に貢献するもの」「利益に貢献するもの」「消費者や業界の話題・企業イメージ強化に貢献するもの」など、自分たちがこの商品によって何を成し遂げたいのか、そして各案が何を主目的としているのか、の明確化も大切です
- 評価の結果「商品化の可能性あり」としたものに関し、消費者の反応を確認
- 「顧客起点」を大切にするという意味からも、企業側の視点・論理だけで判断するのではなく、ターゲット(WHO)として想定する消費者にそのコンセプト(WHAT)を提示し、興味のあるポイントやその理由、購入意向、改善点などをインタビュー等で聞いていきます
- その際に一番大切なのは、消費者から見てそのコンセプトは「独自性のある便益」として認めてもらえているのか、ということになります。
このコラムのシリーズで「WHO-WHAT-HOW」や「独自性のある便益」「9セグメントマップ分析」などの話でご紹介している元P&Gの西口さんによる以下「独自性・便益の4象限」の図に照らし合わせた時、各コンセプトが消費者から「独自性」も「便益」もある右上の「アイデア」として認識されているのかそうではないのかを判断する、ということを意味します
『マーケティングで有効なアイデアはたった1人の顧客分析から生み出せる 考え方の基本を解説』(Markezine、2019.4)より https://markezine.jp/article/detail/30733- 「調査会社に依頼しての調査は費用が高くて難しい」という場合には、以下のようなことも考えられます:
- オンラインセルフ定性調査:いわゆる座談会・FGI(グルイン)は費用も時間もかなりかかってしまうのですが、それよりも安価で結果もすぐわかるテキストベースでのオンラインセルフ定性調査がここ数年で色々と出てきました。以下主なものを:
- 自社でECをやっている場合はその会員へ座談会(オンライン含む)への参加依頼やアンケートの実施
- 公式SNSのフォロワーにSNS上やDMで座談会(オンライン含む)への参加やアンケート・コメントを依頼
- 自社が主催・協賛するイベントの参加者への対面等でのアンケート
- どれも難しい場合は自社内や関連会社・協力会社等で企画系や営業系以外の方(企画・営業だと自分自身の意見よりもビジネス的な視点からの評価が入ってしまうため)へのヒアリングであっても、やらないよりはずっといいと考えます
- なお大型新商品などコンフィデンシャルの度合いの高いものは、SNSフォロワーや一般来場者がフリーで参加できるイベントなど、外部に情報が洩れる可能性のある方法は避けることは大前提です
- それらの調査・ヒアリングによって、自分達では気が付かなかった視点・意見が把握できますので、それを基に必要に応じてコンセプトをブラッシュアップする、という作業も行っていきます
- もちろん、定量調査で量的な評価をすることも大切なのですが、いきなり定量調査をしてしまうと、「選択肢から選ぶ」ことがメインとなり、自由回答の欄を作ったとしても「なぜそれを評価したのか」などの入力は限られ、細かいニュアンスもわかならくなるため、この段階ではインタビューや自由回答のみなどの定性的な調査を行い、定量調査は後述するフィージビリティスタディの段階で、をおススメします。
- 消費者からも好反応を得たものを、「短期」「中長期」で分け、商品化・製造に要する技術・コストなどをざっくりと確認・試算して商品化の可能性を確認・評価する(プレ・フィージビリティスタディ)
- 「現在それに対応できる製造ラインがない」「自社の現状の技術では作れないから実現できない」というような場合もその理由で見送るのではなく、例えばその製造が可能な外部会社にOEMで依頼する(その外部会社との付き合いがなければそれを調べるところから始める)など様々な可能性を追求し、それでも何らかの理由で短期での実現が難しい場合は「中長期」とし、色々なタイミングや内部・外部環境の変化に応じてさらなる検討をしていくもの(ネタ元)として位置付けます
- もしくは、消費者の反応などがかなり良い場合など「本当に重要である」と思われるコンセプトなのであれば、経営陣に「これは新しい投資をするだけの価値がある商品です」という提案をする、というやり方もあるのでは、と考えます
b. 商品化に向けて気を付けたいこと
- フィージビリティスタディ
- 消費者からの評価なども含めてチームから「かなり可能性あり」と最終的な評価を受けたコンセプトに対し、商品化へのGo/No Goを判断するには「実際に製造・販売するとした際に果たしてちゃんと売上・利益が出るのか」という分析が必要です
- このあたりはすでに皆さん十分な知識・経験があると認識していますので、通常実施するであろう以外のポイントを以下2つほど:
- 売上予測:過去の類似商品や競合商品の状況から自社で判断、というのももちろんあるしやるべきだと思うのですが、開発したコンセプトを基に、それがどの程度の売り上げのポテンシャルがあるかを定量調査で確認する手法もあります
このコラムの第2回、『ブランド・商品コンセプト案が持つポテンシャル(スケール)はどうやって判断できる?』(https://x.gd/e4tRT)にその手法がありますのでご参照ください
なお定量調査にかかる費用が問題となる場合は、オンラインセルフ定量調査をぜひご検討ください(最近の相場は「回答者1人1問につき10円」なので、1000人に5問の調査だと5万円で実施出来ます。結果のクロス分析などもオンライン上で自分で無制限にできるのでかなり便利です)。以下主なものを: - 価格設定:費用・利益からの積上げ方式や競合他社の価格からの相対的な設定などの手法のほかに、「この商品コンセプトだと消費者はいくらくらいの価格が妥当だと考えるのか」ということを定量調査を通じて確認する、PSM(Price Sensitive Measurement)分析という手法もあります
コンセプトの「独自性のある便益」の消費者からの評価が高ければ、価値として認識してもらえる可能性も高く、その分を付加価値として価格に反映できる(=不必要に安く設定しなくてもよい)可能性があるか、ということが確認できる手法です。
※上記の商品コンセプト売上予測と一緒に定量調査の質問に入れると合わせて分析ができます
(参考:上の図も)『なるほど統計学園・最適な価格設定』(総務省統計局) https://www.stat.go.jp/naruhodo/15_episode/toukeigaku/kakaku.html
- 売上予測:過去の類似商品や競合商品の状況から自社で判断、というのももちろんあるしやるべきだと思うのですが、開発したコンセプトを基に、それがどの程度の売り上げのポテンシャルがあるかを定量調査で確認する手法もあります
- 試作品作成
- 商品化の可能性があるものに対して試作品を作成し、ターゲットの消費者に試して、評価や購買意向、そしてコンセプトとの合致度を確認することはとても重要です
コンセプトとの合致度がないと、新商品情報などでそのコンセプトを知り興味を持って購入した人に「なんだ、違うじゃないか」と思われ、リピート購入につながらなくなるばかりか、企業・ブランドに対する信頼感にも影響しかねないこととなるからです - 試作品を作り、それを実際の消費者(もしくは上記商品コンセプトの際に依頼したEC会員・SNSフォロワー・関係者以外の社員など)に試食・試飲・テスト使用などの形で試してもらい、それを基にさらに改良を重ねていくことで、商品化に対する精度がより増します(いわゆる「アジャイル開発」ですね)
- その際、例えば食品であれば味・香り・食感などをJARスケール(下記参照)で調べ、それとおいしさや購買意向の10段階評価との相関の重回帰分析等を行い、おいしさや購買意向に最も影響を与えている要素を把握する、ということもぜひやっておきたいことです
- 商品化の可能性があるものに対して試作品を作成し、ターゲットの消費者に試して、評価や購買意向、そしてコンセプトとの合致度を確認することはとても重要です
- ネーミング・パッケージデザイン
- ブランド・商品名もパッケージデザインも、そのブランド・商品のコンセプトを伝える重要な役割を担っています
- なので、上記の試食・試飲・テスト使用の調査の際に、
「このブランド・商品名、パッケージデザインはコンセプトと商品自体に合っているか」
も聞いてその反応を確認しておくことも重要となります - 商品名に関して:
- 商品名の開発に置いては、コンセプト開発と同じような形で、共有ファイルにエクセルのフォーマットなどを置き、チームで記入し投票、というプロセスを経て進めることもできますし、個人的にはそれをおススメします
- ただしその際、候補として上位にある案に関しては、特許庁の特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」のサイト(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で類似する商標登録があるか否かを確認しておくことも大切です(もちろん実際の商品名として進める際には、専門の弁護士事務所による正式な確認が必要なのは言うまでもありません)
- なおそのブランド・商品が日本国内だけでなく海外においても発売を検討している場合、初期段階であればGoogleの英語検索を用いたり、WIPO(World Intellectual Property Organization)の国際商標登録検索(https://www3.wipo.int/madrid/monitor/en/)などを活用することもできますが、それだけでなく、そのネーミングが各国の言語で変な意味の言葉に似ていないか、というようなチェックもとても重要となります
※参考:『知的財産権を学ぼう ~海外ネーミングを事例から学ぶ』(TCD、2020.8) https://www.tcd.jp/branding/06-focus/chitekizaisan04.html
- 商品名の開発に置いては、コンセプト開発と同じような形で、共有ファイルにエクセルのフォーマットなどを置き、チームで記入し投票、というプロセスを経て進めることもできますし、個人的にはそれをおススメします
- パッケージデザインに関して:
- これは専門的な技術や知識がいるものなので、さすがにチームでデザイン開発する、というのは難度が高く、専門家に任せる方が(多少品とのデザインの類似性を避けるという法的な意味も含め)無難であると思っています
- 出来上がったパッケージデザインは、上に記したように、試食・試飲・テスト商品使用の際にその商品コンセプトや実際の味・使い心地などとのマッチングを聞くことで評価を確認することができます
- なお最近ではPLUGというパッケージデザイン・評価の会社による、自社の過去の1000万人以上のパッケージデザイン調査のデータを基に東京大学山崎研究室との共同研究によって開発されたAIが新しいパッケージデザインを評価する、という「パッケージデザインAI」(https://hp.package-ai.jp/)も多くの企業で活用されています
これ、1画像あたり15,000円、最短10秒でデザインの好意度ランク、さらには性別・年代別の評価などの結果を見ることができる、というスグレモノです
※私も実際その結果を何回か見ていますが、この内容がこんなに短時間・低価格で!と最初はかなり驚きました
リアルの調査だと時間も費用もかなりかかり、なおかつデザインアイディア流出のリスクもある、ということを考えると、こういう手法の活用も十分アリだと思います(念のため、私はPLUG社とは何の利害関係もありません)
- これは専門的な技術や知識がいるものなので、さすがにチームでデザイン開発する、というのは難度が高く、専門家に任せる方が(多少品とのデザインの類似性を避けるという法的な意味も含め)無難であると思っています
4回にわたってブランド・商品コンセプトの開発方法をお伝えしてきました。
潤沢な人材や予算を持っていない企業であってもアプローチが可能で、なおかつ消費者・顧客に対して「独自性のある便益」を持ったブランド・商品のコンセプトのつくり方とその評価方法、そして商品化に向けてのポイントなどを記してきました。
これらの多くは私が実際に行ったり、いまも複数の企業に対してプレイング・アドバイザー的にサポートしている手法を基にしていますが、「この部分、よくわからない」「ウチではこれはうまく行かない」「ここはおかしいんじゃないか」というようなご意見も含め、ぜひ suzuki.taku@kirikuchi.co.jp までお聞かせください。
このシリーズのスピンオフとして、今後以下のような内容のコラムも予定しています。乞うご期待!