「STP」は「WHO/WHAT」の後で。

マーケテイング戦略を立案する際、環境分析(SWOTなどを含む)を踏まえてSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)を作成する、というのが現在でも主流となっていると認識しています。

  
私も数十年間、これを実施していました。
でも、やればやるほど、以下のような想いもずっとついて回りました:

  • 「このセグメンテーションやポジショニングの方法(軸の決め方)が最も正しい!」とどうして言える・証明できるのか
  • この細分化によって、実はこぼれ落ちてしまう本来大切なターゲット(人・企業)もかなりいるのではないか(=自分達で自社の企業・商品・サービスの可能性を狭めてはいないか)

  

これに対しては「それはあなたのSTPのやり方が悪いからだ」というご意見もあり、実際その通りなのかも知れません。ただ、以下のような状況が近年ますます起きてきているのも事実です:

  • 業界・企業側の定義による「カテゴリー」においては異なるところに属しているブランド・商品同士が、ある消費者・エンドユーザーの頭の中では競合する同じカテゴリーとして認識されていることも多々あり、ブランド・商品側も元々それが属していたところから「越境」していく傾向もみられる(以下例):
    • ベビースターラーメン:お菓子・おつまみから、「料理にも使える」提案をすることでV字回復(『ベビースターV字回復の舞台裏』日経クロストレンド会員記事2023.4 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00808/00005/
    • ミツカン味ぽん:1964年発売時の「鍋専用調味料」から現在は「つける・かける・加熱調理用途などに使え、初心者でも味の幅が広がる汎用調味料」に(『発売60年のミツカン「味ぽん」売上10%増 「味の幅」訴求が奏功』日経クロストレンド2024.11 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01003/00009/
  • 博報堂生活研究所が昨年発表した『消齢化』(https://seikatsusoken.jp/shoreikalab/)でも指摘されているように、生活者の意識や好み、価値観などについて、年代・年齢による違いが小さくなってきている

  
そんな中で、ともすれば「既存のカテゴリーで市場を捉え」たり、「デモグラフィック・属性によって規定されがちなターゲット設定」をしてしまうと大きな機会を失ったりする可能性はますます高くなり、かといってSTPを価値観などの心理、行動を基に軸を作ろうとしても、「その軸がなぜ正しいのか、他にもっとよい軸はないのか、それによってみすみす見逃してしまうものはないのか」ということに対する明確な回答はありません。
例えば「あらゆる可能性を試した結果」としても、その「あらゆる可能性」には、上記のような個々の消費者が頭の中で描くカテゴリーまですべて含まれているのか、というと大きな「?」が付いてしまいます。
  

一方で、P&Gで昔から用いられている『WHO/WHAT/HOW』という考え方は、以下のようなものです(私の解釈です):

  • リアルな特定の消費者(WHO)に対し
  • その人に「価値」として認識してもらえるような「独自性のある便益」(WHAT)は何なのか、ということを深堀り・探求してそれを実現し
  • そのWHOに対してWHATをどのように届けていけばよいのか、というHOWを考えていく

『西口一希氏に聞く「マーケティング戦略立案で迷わないために、大切なこと」』マクロミルnote、2023.4 https://note.com/macromill/n/n8733b9206cbc
  

ここ数年、上記の考え方で様々な企業のプロジェクトや商品開発、コミュニケーション戦略戦術開発などを行ってきましたが、とてもシンブルに(でも深く)考えられ、かつマーケティングに詳しくない関係者に対しても腹落ちができるような進め方と結果を出せるようになりました。
  

ちなみに、
「そのやり方では、たまたまその一人だけがそう思っていたかも知れない:同じような価値観・行動・認識をする人がどの程度いるのかわからないのになぜそれがいいと言えるのか?」
という意見もよく伺うのですが、それに対しては、以下のようにお話ししています。
「その場合は、このWHAT(独自性のある便益 ≒ 商品コンセプト)がどれだけ多くの人に対して有効なのか、定量調査で確認することをお勧めします。
またその際、競合となりそうな複数の商品コンセプトも商品名を隠して提示し、それぞれのコンセプトに対しての興味・行為・共感・購買意向を聞くことで、その競合商品の販売ボリュームから相対的なポテンシャルも推測することもできます」
※もちろん、実際には価格やディストリビューションといった要素も影響するので、それが同じであった場合、という仮説ベースのものになります
  

で、最初にお話ししたSTPですが、上記のWHO/WHATをより多くの、主に上司や顧客といった人たちに説明する際に活用するとよいのでは、と考えます。つまり、
  
STPは発想のためではなく、(WHO/WHATで)発想したものを説明するためのフレームワークである
  
と捉えるとよいのではないか、と考えています。

※B2B商品・サービスの中でその機能や用途、対象業種がある程度定まっているものなどはSTPによる発想でももちろん問題ないと思っています

  
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